青山 繁弘
公益財団法人流通経済研究所 理事長
上原 征彦
公益財団法人流通経済研究所 理事・名誉会長/株式会社コムテック22 代表取締役
祝 辰也
公益財団法人流通経済研究所 上席研究員/コンサルティング・リサーチ ビジネススクール 統括
根本 重之
公益財団法人流通経済研究所 理事
後藤 亜希子
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員
経済産業省「電子商取引に関する市場調査」は2020年のEC化率が8.1%になったと推計している。だがEC化率は品目によって大きな差があり、食品はまだ3%台にとどまっており、開拓レベルの低い最大市場となっている。
総務省「家計消費状況調査」によると「EC利用世帯当たりEC支出額」はここのところ増加幅が縮小する一方、「EC利用世帯の割合」は上昇し続け、新型コロナウイルス感染症下で50%を超えるに至った。したがってEC支出の増加は、前者より後者の要因によるところが大きい。そして現在5割程度のEC利用世帯の割合はまだ高まるであろうから、それだけでもECはさらに成長すると考えられる。他方、「EC利用世帯の消費支出に占めるEC支出の割合」はここ数年11%程度であまり動いていないことから、状況が変わらなければ、EC利用世帯の割合が100%になったとしても、全世帯ベースの消費支出に占めるEC支出の割合はそのレベルを超えないと見ることもできる。
祝 辰也
公益財団法人流通経済研究所 上席研究員/コンサルティング・リサーチ ビジネススクール 統括
消費者の購買先選択におけるECの位置付けを明らかにするために、食品、日用品、衣料品、家電製品の4つのカテゴリーについて、Web消費者アンケート調査を行った。購買頻度が高い食品、日用品では店舗アクセスの容易さから実店舗業態の利用率が高かった。購買頻度の低い衣料品や家電製品では、「店に行く必要がない」という理由からEC業態とくにEC専業業サイトの利用率が高かった。しかし衣料品、家電製品共にEC専業サイト利用者の40%以上が実店舗業態を併用しており、実店舗を利用する理由として「商品の実物を見たり手に取ったりできる」こと、「商品についての質問や相談がしやすい」ことが挙げられた。
キーワード: EC、実店舗業態、Amazon、楽天、業態利用山﨑 泰弘
公益財団法人流通経済研究所 常務理事
高橋 周平
公益財団法人流通経済研究所 研究員
新たな販売チャネルであるECの中で、中小事業者が利用する大手総合ECサイトの役割は大きいと考えられる。本研究では、EC事業者に対するインターネット調査を行い、成功事業者の要因を検討した。その結果、複数の総合ECサイトを併用することの有用性が確認された。また、成功事業者は総合ECサイトが提供する各種サービスの利用率が高く、事業戦略として、品揃えの差別化を図り、総合ECサイトを積極的に活用する傾向がみられた。
キーワード: Eコマース、EC化率、総合ECサイト、中小事業、品揃え沖 賢太郎
株式会社KDDI 総合研究所 フューチャーデザイン1部門 事業環境リサーチG シニアアナリスト
D2C(Direct to Consumer)とは、ブランドが顧客とダイレクトな関係を持つビジネス形態であり、直販とダイレクトコミュニケーションが特徴だ。増えつつある既存企業のD2C転換で優先課題となるのは既存流通との衝突の克服であり、2つのアプローチを紹介する。1つは、ブランドへの強い共感を集めての「突破型」D2C転換であり、NIKEが好例だ。もう1つは、ゼロベースで価値を刷新する「衝突回避型」D2C転換だ。流通の制約を考えず、本来提供したかった価値に立ち戻り商品を構想する。流通の作法から外れる商品は、小売店には扱いづらく正面衝突は起きづらい。歴史がない新興D2Cは世界観の構築に苦慮する一方、既存企業の持つ歴史が世界観の源泉になり得る。昔から続く価値観や創業理念などへの原点回帰が既存企業のD2C転換のスタート地点になるだろう。
キーワード: D2C (Direct-to-Consumer)、直販、顧客理解、世界観、共感望月 智之
株式会社いつも 取締役副社長
Eコマース(以下、EC)の重要性は、小売業を営むものであれば最早無視できない存在になったと言える。しかし、日本における小売市場全体にしめるECの比率は、経産省による令和2年度の調査で約8%。この数字だけを見れば、小売全体の規模から見て1割にも満たないECの存在が、なぜここまで大きくなっているのだろうか。その理由を紐解くと、技術の発達やその利便性だけでなく、消費者や買い物行動そのものの変化に気付くことができる。そんな消費者・買い物の変化と、ECが担う新たな役割について日米の事例を交えて紹介する。
キーワード: EC化率、デジタルシェルフ、買い物プロセス、スモールマス、サステナビリティ中村 博
公益財団法人流通経済研究所 理事/中央大学大学院 戦略経営研究科 教授
「破壊的イノベーション」をともなうネット通販が成長している。Amazonはその代表格であり革新的なDXを展開し急速な成長を遂げている。わずか、26年で世界第2位の小売業になり、世界1位のWalmartに迫っている。この急速な成長は、いわゆる「Amazon Effect」と呼ばれ、既存小売業は苦境にたたされている。例えば、長く小売ビジネス市場を牽引してきたSearsも倒産した。既存小売業は、そのビジネスモデルを変革せざるを得ない状況にある。既存小売業の代表格であるWalmartは自社が有する実店舗のビジネスを、DXを活用しながら「再定義」する戦略で業績をあげている。本論は、Amazonのビジネスモデルを「弾み車の理論」から検討し、既存小売業に与えるAmazon Effectを確認する。そして、既存小売業の対応戦略としてWalmartの「両利き経営」について検討している。
キーワード: 破壊的イノベーション、Amazon Effect、弾み車、両利き経営、店舗の再定義