祝 辰也
公益財団法人流通経済研究所 上席研究員/流通ビジネススクール統括
井上 祐介
丸紅経済研究所 経済調査チーム長
2023年の世界経済を展望する上ではインフレが最大のテーマになる。中でも、世界最大の経済大国である米国の物価および金融政策の動向が注目される。米国では昨年半ばに高騰したエネルギー価格の下落や財市場における物価上昇の減速などからインフレがピークアウトしたとの見方が出ているが、労働市場の逼迫から顕著な賃金上昇が続いている。物価上昇率は金融当局が政策目標とする前年比2%の水準には簡単には戻らないことが予想され、金融引き締めの長期化が予想される。日本については、資源価格の高騰や円安の影響により、消費者物価上昇率は40年ぶりの高水準を記録している。これらの物価押し上げ要因は緩和方向にあると見られ、今後の持続的な物価上昇には賃金上昇の実現が鍵となる。
キーワード: インフレ、金融政策(引き締め)、エネルギー、賃金上昇、サービス価格宮下 裕
株式会社インテージ パネル事業推進部 小売店パネルグループ
原材料価格の高騰などに起因する物価上昇は今後も続くことが予想され、メーカー、小売業においては、「値上げ」実施の判断をすることが避けられない状況である。適正に値上げを実施し、生活者に商品を選択してもらうためには、生活者を理解し、良好な関係を築くことが必要であると考える。
本稿では、現在進む値上げの実状について各種データで確認し、その構造について考察する。また、生活者を理解するために、どのようなデータを活用し、どのような点に着目すべきかについて、データ分析事例をもとに紹介する。
久我 尚子
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員
物価高が進行し、家計の負担が増している。ニッセイ基礎研究所では20~74歳を対象に意識調査を実施したところ、消費者が物価高を実感した理由には食料や日用品などの生活必需品の値上がりが多くあがる。物価高進行下で報道等ではメーカーや店舗間の価格競争に関心が高まりがちだが、実際に消費者の行動として圧倒的に多いのは不要品の購入控えであり、次いでポイント等を活用した価格を抑える工夫があがり、低価格商品への乗り換えは3割にとどまる。つまり、消費者は冷静に自分にとって価値のある商品を見極め、支出を抑える工夫をしているようだ。また、意識や行動には経済状況やライフステージ、日頃の購買志向による違いも見られる。
キーワード: 物価高、消費者物価指数、実質値上げ、消費者意識、経済状況折笠 俊輔
公益財団法人流通経済研究所 主席研究員
本稿では、農産物・食品の生産者などに向けて、原料・資材価格の高騰への対策として商品への価格転嫁・値上げについての考え方を整理し、具体的な売価向上、経営としての利益率向上施策について論じた。経営視点での値上げ対策としては、「取引先の見直し(もっと高く購入してくれる顧客へのターゲット転換)」を提案した。消費者心理に基づいた値上げの検討では、「限定する」、「値付けと商品訴求時の数字の見せ方を工夫する」、「松竹梅の商品展開を行う」、「自社や商品のファンづくりを行う」、「サービスと合わせた商品提供を行う」といった内容をまとめた。
加えて、値上げのために値引きのスキルを高めるという発想のもと、値引きの手法について「参照価格を下げない」、「値引きを刻む」、「値引きに理由をつける」、「抱き合わせ販売を行う」といった内容をまとめた。
結局、値上げの本質は、単純に商品価格を上げることではなく、マーケティングや経営全体の戦略を考え、利益創造ができるように企業体質を変えていくことであると言える。
高橋 周平
公益財団法人流通経済研究所 研究員
原料費、輸送費などのコスト面の上昇は、すでに企業内部での努力では吸収が困難な局面に至っている。一方、商品の値上げには消費者の購買を抑制し、企業にとって売上を大きく落とすリスクを伴う。消費者に受け入れられるよう適切に価格転嫁を行い、値上げを定着させるためには、消費者が購買行動においてどのように価格を記憶しているかを知ることが重要である。
本稿では、流通経済研究所が2022年11月に行ったweb調査をもとに、複数の商品を事例として取り上げ、消費者が価格をどのように記憶しているのかを紹介する。またその記憶された価格に基づいて、消費者を3つのセグメントに区分し、それぞれのセグメントが当該商品に対していくらまで支出を許容するのか、また支払許容価格を超えた場合にどのような行動をとるのかを確認し、それに対するメーカー・小売の対応を考察する。
三枝 富博氏
株式会社イトーヨーカ堂 取締役会長/日本チェーンストア協会 会長
聞き手 加藤 弘貴
公益財団法人流通経済研究所 専務理事
聞き手 渡辺 達朗
公益財団法人流通経済研究所 理事/専修大学 商学部 教授
渡辺 達朗
公益財団法人流通経済研究所 理事/専修大学 商学部 教授