山﨑 泰弘
公益財団法人流通経済研究所 常務理事
齋藤 晃太郎
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社 マネージングディレクター
企業に求められる社会(ステークホルダー)からの期待と要請がサステナビリティへの関心の高まりにより変化し、ESG(Environment, Social, and Governance)の分野の非財務情報開示の重要性が高まっている。その中で自然資本を活用した多様な商品、製品を扱う流通産業は、そのサプライチェーン上のESGデータを把握、可視化し、脱炭素化していくことを技術・イノベーションによってビジネスモデルに組み込み、それを実行するためのプラットフォームを有している。リアルタイムESGデータ等を取得し、サプライチェーン上の取引先企業と連携共有し製品を顧客に届けるプロセスをCO2削減量とコストの観点から最適化し、生み出されたCO2削減価値を可視化することで、従来見えなかった価値や経営インサイトを導出し炭素価値を企業価値にいち早く組み込み、企業価値向上に繋げられる可能性がある。さらにそこで生まれる「省エネ」や「CO2削減」などの「環境価値」を顧客に訴求するといったロイヤルティマーケティングへの活用も考えられる。
キーワード: サステナビリティ、脱炭素技術・イノベーション、ESGデータの把握、可視化、環境価値大平 修司
武蔵大学 経済学部 教授
流通業界は、これまで何度もビジネス・イノベーションが創出されることで、業界それ自体を拡大してきた。しかし、SDGsに取り組むことが当たり前となった日本の流通業界では、社会的課題の解決につながるソーシャル・イノベーションが創出されているものの、業界を一変させるまでには至っていない。本稿ではこれまで流通業界のあり方を変えてきたビジネス・イノベーションを振り返り、プラットフォーム・ビジネスによるソーシャル・イノベーションの創出を検討し、それをさらに普及させるための消費者の責任ある消費について論ずる。
キーワード: ビジネス・イノベーション、ソーシャル・イノベーション、プラットフォーム・ビジネス、フードロス、責任ある消費渡辺 昭一郎
アスクル株式会社 マーチャンダイジング本部 グリーンプロダクトマネジメント
アスクルは、法人・個人向けeコマースとして、1993年の設立から商品の分野を拡大し、現在では1,200万点以上の商品を扱っている。環境配慮されたオリジナル商品の開発・採用に2010年から取り組んでいたが、脱炭素、資源循環・省資源、生物多様性保全を目指し2021年に商品環境基準を策定した。すべてのオリジナル商品を評価し、2022年から商品サイトにスコアを表示する取り組みを開始し、2023年にはBtoBサイトでスコアを葉っぱのマークで見える化を実施したことにより、CVR向上の傾向が見られた。本稿ではアスクルの環境の取り組みと商品環境基準について紹介する。
キーワード: エシカルeコマース、脱炭素経営、商品環境基準、資源循環プラットフォーム、商品廃棄ロス削減橋本 公尚
三菱食品株式会社 経営企画本部 サステナビリティグループ マネージャー
三菱食品では、一般には伝わりにくい「食品卸売業」という業態の果たす社会的機能や役割、更には知的資産をステークホルダーに周知するため、昨年度より統合報告書を発行している。本稿では「三菱食品 統合報告書2023」を基に、当グループが設定する4つの「サステナビリティ重点課題」のうち、環境問題対応の「2030年目標」として挙げられる[1]CO2排出量削減、[2]TCFD、[3]Scope 3に焦点を当て、主に脱炭素への取り組み事例を紹介する。
具体的には、CO2排出量を削減するために環境配慮型の電力や車両を導入し、サステナビリティに取り組む業界のリーディングカンパニーとして主体的にTCFD開示を行っている。また、TCFD提言に沿った指標・目標としてのScope1、2において自社の事業活動に伴うCO2排出量削減ロードマップを策定することに加え、サプライチェーン全体のカーボンニュートラル実現に向けてScope3の可視化にも着手している。
山﨑 泰弘
公益財団法人流通経済研究所 常務理事
大手DGS3社の統合報告書から環境対応の取り組みについて確認した。企業統合などで上位集中化が進むドラッグストア(DGS)業態では、商品・サービスの拡充と共に対応すべき社会課題対応も増えている。流通業にとって今後の課題となるScope 3への対応について、売上規模が大きく成長途上にあるDGS企業の役割は大きいと考えられる。環境配慮型PB開発は今後サプライチェーン全体の取り組みに深化すると考えられ、同様の取り組みを取引先メーカーとの協働で進めることも期待される。
キーワード: ドラッグストア、環境対応、統合報告書、Scope3、エシカル消費石川 友博
公益財団法人流通経済研究所 上席研究員
寺田 奈津美
公益財団法人流通経済研究所 研究員
本稿は、食品小売業におけるサステナビリティへの取り組みの現状と課題をどう捉えるべきかという問題に取り組む。アンケート結果から、食品小売業のサステナビリティへの取り組みの現状と課題が、①サステナビリティへの取り組みの「コスト」から「投資」への転換と、②全従業員が一体となった推進体制の構築、の2点にあることを示す。本稿の貢献は、調査対象を食品小売業に限定し、食品小売業のビジネスモデルを考慮した設問設計を行うことで、食品小売業の現について掘り下げた考察を行う点にある。
キーワード: サステナビリティ経営、SDGs、推進体制、コストから投資へ、ステークホルダーコミュニケーション石橋 敬介
公益財団流通経済研究所 客員研究員/信州大学経法学部 准教授
佐々木 舞香
公益財団法人流通経済研究所 研究員
佐藤 尚樹
株式会社プランニングファーム
西山 淳一
株式会社ヤオコー 生鮮部 青果担当副部長
農産物において、品種は商品の特徴を消費者が把握するための情報となる。しかし、スーパーマーケット等の小売店頭では、品種の表示がされないことが多くある。そこで本研究では、農産物の品種を小売店頭で表示することにより消費者の反応がどのように変わるかを把握するため、桃を対象として品種表示の実験を行った。その結果、品種表示によって売上が向上し、消費者の品種への認知が高まることが確認された。また、桃の購入頻度が低い消費者に限ると、当該品種を生産する産地が桃の代表的な産地であるという意識が、わずかながら向上していた。
キーワード: 品種表示、フィールド実験、店頭実験、POSデータ、差分の差分法上原 征彦
公益財団法人流通経済研究所 理事・名誉会長/株式会社コムテック22 代表取締役