田代 英男
公益財団法人流通経済研究所 農業・物流・地域部門 副部門長/主任研究員
矢野 裕児
流通経済大学 流通情報学部 教授/物流科学研究所長
物流2024年問題は、農産物物流、特に輸送距離500km以上の長距離輸送に大きな影響を与えるとされている。生産地から消費地側卸売市場に向けてどのように農産物が供給されているのか、輸送距離の視点から品目別、地域別にマクロ的に整理した。その結果、現在の農産物流通において、長距離輸送によるところが大きく、重要な役割を果たしていることを明らかにした。しかしながら今後の物流供給制約により、長距離輸送は困難となっていくことが予想され、どのような課題を抱えているのかを整理すると同時に、卸売市場の物流面からのネットワーク化を進めていくことの重要性について述べた。
キーワード: 農産物物流、卸売市場、長距離輸送、物流2024年問題、ドライバー不足渡邊 敏康
公益財団法人食品等流通合理化促進機構 業務部 課長
農林水産省の「生鮮食料品等サプライチェーン緊急強化対策事業」における農産物物流の効率化に向けた取り組み事例を紹介し、卸売市場の役割と青果物流通の未来について考察した。
事業では、共同配送、モーダルシフト、中継拠点の活用など、様々な物流改善策が実証され、トラックドライバーの拘束時間短縮や物流コスト削減に貢献している。特に、卸売市場を中継拠点として活用することで、長距離輸送の効率化が図られることが示された。
一方で、卸売市場は、日本の青果物流通において依然として重要な役割を担っているが、近年は流通経路の多様化が進んでいる。本稿では、卸売市場の機能や役割を改めて検証し、今後の青果物流通において卸売市場がどのように貢献できるのかを考察した。
その結果、卸売市場を全国的な物流ネットワークの中核として位置づけ、集荷、分荷、保管などの機能を強化することで、より効率的で持続可能な青果物流通を実現できる可能性が示唆された。
吉間 めぐみ
公益財団法人流通経済研究所 上席研究員
「物流2024年問題」は、物流現場と消費者の間に認識の乖離がある。それは、消費者が認識している宅配などのマイクロ物流(BtoC)と企業間物流(BtoB)には異なる課題があることに起因する。企業間物流は物流市場規模の85%を占め、消費者に影響がないと考えられているが、企業間物流が上手くいかなければ、消費地の農林水産物は棚から姿を消す可能性があるため、「物流2024年問題」のマイクロ物流をきっかけに企業間物流に対して理解を深めることで、消費者としての考え方や行動に影響を与えていけるのではないかと考える。
キーワード: 農産物物流、物流2024年問題、マイクロ物流(BtoC)、企業間物流(BtoB)、物流効率化矢崎 圭
株式会社 野村総合研究所 アーバンイノベーションコンサルティング部 プリンシパル
伊藤 将希
シニアコンサルタント
木内 那由
コンサルタント
物流業界は担い手不足や2024年問題、カーボンニュートラルへの移行など様々な課題に直面している。特に長距離輸送が不可避である農水産物においては、その影響も大きく、持続可能な物流構築が求められている。本稿では、その解決策の一つとして着目され始めている新幹線の空きスペースを活用した物流について、鉄道会社が実施している取り組みを紹介する。また、新幹線物流の普及・拡大に向けた課題を整理し、農水産物等生鮮食料品において新幹線の優位性をうまく活用した物流網を構築することで期待される付加価値向上や新たな事業機会の創出効果についても言及する。
キーワード: 新幹線、高速輸送、カーボンニュートラル、2024年問題、輸出氷川 珠恵
有限責任監査法人トーマツ 監査・保証事業本部 監査アドバイザリー事業部 ビジネス・アシュアランス部 シニアマネジャー
「物流の2024年問題」が危惧されているが、今後、ますます事態は深刻化すると想定されている。この事態の解決のため、DXによる効率化・合理化が必要であり、農産物サプライチェーンでは、受発注と入出荷で必要となる商品規格と商品数のデータを事業者間で共有すれば、コミュニケーション時間は大幅に削減する。さらにトレーサビリティや在庫管理などの取り組みも容易になる。しかし、実際には生産者への負荷の増大が課題となり、DXが進んでいない。この解決のため、DXを導入した生産者からは買取価格の上乗せをしたり、一定量の青果物を安定的に購入する長期契約を導入したりするなど、生産者へのメリットの訴求がキーとなる。
さらに、世界的にはサステナビリティ配慮の高まりにより、商品とともに情報が流通するようになっている。今後は、効率化・合理化に加え、サステナビリティ推進の側面からもその重要性を捉えなおすことで、新たな付加価値創出に結びつけることが期待される。
髙橋 漱
公益財団法人流通経済研究所 農業・物流・地域部門 研究員
働き方改革関連法施行により、2024年4月よりトラックドライバーの年間時間外労働時間の上限規制が適用された。当該規制により、運送業者の売上・利益減少、1運行当たりのリードタイム増加、荷主の経済的負担増加、トラックドライバーの収入減少などが懸念される。同時に、2024年には全産業分野平均で輸送力が14.2%低下する試算があるなか、農産・水産品の分野の輸送能力不足は危機的状況であり、今後はさらに衰退していく蓋然性が高い。いわゆる「物流の2024年問題」である。
そこで、本稿では、⑴直近の改正物流法案のポイントをまとめ、⑵農産物輸送の効率化に着目し、⑶働き方改革関連法の規制に応じた産地での取り組みを取り上げ、結論として、今後の農産物輸送の改善策を示した。具体的には、特定の産地での既存のサプライチェーン改善に関する事例に焦点を絞り、荷主や物流事業者にとって輸送効率改善につながるヒントを示すことで、今後の農産物輸送の改善策を導き出している。
松本 邦博
全国農業協同組合連合会 大分県本部 米穀園芸部 部長
須股 慶一
全国農業協同組合連合会 大分県本部 米穀園芸部 園芸販売課 専任課長
聞き手 田代 英男
公益財団法人流通経済研究所 農業・物流・地域部門 副部門長/主任研究員
2024年4月よりトラックドライバーの労働時間規制が適用され、モノが運べなくなる可能性が現実のものとなりつつある。また、2030年には全国の約35%の荷物が運べなくなるという試算もでており、長期的な視点を持ったうえで物流改善を図っていく必要があると言える。
全国農業協同組合連合会大分県本部(JA全農おおいた)では、こういった課題に対して産地のストックポイントとなる県域物流拠点「大分青果センター」を設置し対応を進めている。
そこで、JA全農おおいたの取組みについて議論した後、今後の農産物物流の効率化を促進するための課題について示す。
小林 寛久
公益財団法人流通経済研究所理事/カゴメ株式会社 取締役常務執行役員 国内事業管掌
加藤 宣司
カゴメ株式会社 営業本部 広域営業統括部 課長
西村 順二
甲南大学 経営学部 経営学科 教授