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2017.7.21 更新

誘発されやすい「知覚リスク」を低減する―― 人気を集めたボディソープ商品の店頭活動に見るアイデア

池田 満寿次
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員

 商品購入を左右する消費者心理の一つとして、「知覚リスク」と呼ばれるものがある。商品・サービスの購入にあたり、消費者が感じる不安や懸念のことを指す。主に図表1に示すリスクに大別され、新商品や購入経験が少ない分野の購入場面で生じやすい。知覚リスクを抱いた消費者はその解消に向けて、①広範に情報を収集する、②安心できるもの(馴染みの商品・ブランドなど)を選択する、といった行動を取る傾向がある。また、③ベネフィットを期待する、といった形で商品への期待が上回り、すんなりと購入に至ることも当然ある。
 販売サイドは、不安を抱いた消費者がその解消に向けて情報収集をしてくれることに期待を寄せがちだが、こうした労力が割かれるのは高額商品や耐久消費財といった「高関与商品」が中心となりやすい。食品や日用品などの「低関与商品」になると情報収集の手間を省き、不安を解消できなければ安心できるものを選択したり、購入を見送る方向に収束しやすい。ちなみに購入の選択肢が多くなるほど、知覚リスクが促されるといった研究結果もある。新商品が数多く登場するほか、ECも含めて買い物先が豊富にある昨今は、知覚リスクが誘発されやすい環境にあるとも言える。
 こうした環境下、知覚リスクの軽減に努め、販売を伸ばした好例を紹介したい。ライオンが昨秋に新発売し、人気を集めたボディソープ「hadakara(ハダカラ)」でのマーケティングの取り組みだ。保湿成分が肌に残ることを特長とした商品は、当社にとって8年ぶりとなる新ブランドのボディソープだった。ただボディソープは肌に使用する性格上、消費者は馴染みのブランドをリピート購入する傾向が強いという。「ブランドスイッチを促すのが簡単ではないカテゴリー」(ライオン・ビューティケア事業部ブランドマネジャーの柴山英樹氏)でもあり、強力な既存ブランドが居並ぶ売場で、いかにトライアル購入を促せるかが課題だった。
 こうした中、発売前の段階では1000人以上の消費者モニターから好意的な声が多く寄せられ、手ごたえがあったという。そこでトライアル購入を促す試みとして、利用者のリアルな声を活用し、販売活動を展開しようという機運が広がった。工夫を凝らした一つが、詰め替え用の商品パッケージだった。モニターの声を伝える方法として、「商品パッケージをメディア化する」(柴山氏)ことを発案。パッケージ上には“先行モニター1000人の声”と冠し、モニターから寄せられたポジティブな声を掲載する斬新なデザインを採用した(写真)。このほか、販売店の関係者にはお試し用の少量商品を積極的にサンプリングし、一部チェーンストアとの協業では、サンプル商品を使ったパート従業員からも感想を募った。そこで寄せられた「泡立ちがとてもなめらか。ずっと洗っていたい気持ちになりました」――などといった声を載せたオリジナルポスターを作成し、売場に掲出するケースもあった。販売活動において「利用者の声」を活用するアプローチはEコマースの分野で普及しているものの、実店舗の販売活動ではあまり例がなく、先駆的な試みだったと言える。レビューを武器とした一連の施策は奏功し、100万個を売れればヒットと言われる当カテゴリーで、「hadakara」は発売3カ月間で600万個を売り上げた。発売からもうすぐ1年を迎える中、ドラッグストアなどの店頭では定番商品化しており、トライアル購入を促す施策が実った様子が伺える。
 商品への評価・感想といったレビュー情報を用いて消費者の知覚リスクを低減しようとするアプローチは、ネットショッピングの分野で先んじて定着している。ネット上では実物を確認できない不利を補うべく、アマゾン・ドット・コムをはじめ有力EC事業者は、利用者レビューの収集~掲載機能の強化に努めてきた経緯がある。レビュー情報の充実が、EC市場の拡大に少なからず寄与してきたと言えるだろう。こうした一方、スーパーなどの実店舗では、来店客の知覚リスクを低減しようとする取り組みが十分とは言えない。ちなみにライオンの営業担当者が「hadakara」の詰め替え用パッケージをチェーンストアとの商談で披露すると、多くのバイヤーから賛同の声を得たという。その商品力もさることながら、売場で購入を後押しする目新しいアイデアに少なからず触発されたのかも知れない。

※ 研究情報誌「流通情報」に連載する『ショッパーへのマーケティング考』の掲載分(2017年7月号)を一部加筆し、再掲しました。

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