2017.11.22 更新
加藤 弘之
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員
2017年におけるドラッグストア3大ニュース
2017年の春、ドラッグストア業態には3つの大きなニュースがあったことを覚えているだろうか。ひとつは、2016年度における業態全体の総売上高の伸び率が8年ぶりに5%を超える5.9%(日本チェーンドラッグストア協会調べ)となり、低成長期を脱したと見られたこと。2つめはドラッグストア業態の総売上が6.4兆円(同)となったことにより、ドラッグストア業態の売上高が百貨店(約6.0兆円、日本百貨店協会調べ)を上回ったこと。そして、2017年決算において、これまで売上高で業界首位を保ってきたマツモトキヨシHD(当期売上高5,351億円 )の座を、ウエルシアHD(同6,232億円 )が上回ったことである。最後のニュースについては、各社の決算が出揃った後にツルハHD(同5,771億円 )が静岡の杏林堂(同895億円 )を9月に子会社化するとの報もあり、来年度決算では業界首位がさらに入れ替わる可能性も生まれている。
このように、にわかに活況を呈した感のあるドラッグストア業態であるが、その背景としては、近年におけるインバウンド需要の取り込み、調剤対応の拡大、食品取扱いの強化などの要因が挙げられている。しかし、もう一点、現在の状況を準備した要素として、ドラッグストア業態が2000年来たどってきた成長の軌跡との関係を指摘しておきたい。
ドラッグストア業態における4段階の成長サイクル
グラフは、2001年から2016年にかけてのドラッグストアの総売上高、総店舗数、一店舗あたり売上(総売上高を総店舗数で割った推計値)の対前年伸び率を示したものである 。この間(2000年から2016年まで)の総売上高は2.7兆円から6.5兆円に、総店舗数は1.2万店から1.9万店に、1店舗あたり売上(推計値)は2.3億円から3.4億円に、それぞれ増加している。
ここで各指標の推移を見てみよう。総売上高は期間を通じて一貫してプラスであるが、その伸び率は2002年をピークに2015年度まで一貫して下落基調であったことが読み取れる。店舗数は2003年度まで5%程度の伸びを示していたが、2004年度から2%前後の伸びで安定している。そして1店舗あたり売上(推計値)の伸び率は2008年まで店舗数の伸び率をほぼ上回っていたが、2009年に逆転し2010年代では、ゼロ~マイナス成長になっていることが読み取れる。
上記の結果から、2001年以降におけるドラッグストアの成長サイクルについては、2004年度、2009年度、2016年度を画期に「高度成長期」「体質改善期」「低成長期」「再成長期」4つの時代に分けることができそうだ。
「再成長期」に差し掛かったドラッグストア業態の今後
さて、上記の推移をもとに2016年度の実績を改めて考えてみよう。2016年度はドラッグストア業態にとって「再成長期」の始まりと捉えることができるが、その要因としては1店舗あたり売上の伸び、すなわち店舗の生産性向上が強く寄与していると考えて良いだろう。それでは、店舗の生産性向上はなぜ起こったのだろうか。
ここで、冒頭3番目のニュースとして挙げた、ドラッグストアチェーンにおける売上首位交代の動きを思い出したい。流通経済研究所は、上場チェーンの売上構造をもとにチェーンを4つのタイプに分類しているが 、それによると今回の交代劇は「HBC強化型チェーンのマツモトキヨシを、折衷(総合)型であるウエルシア、ツルハが抜いた」と見ることができる。
つまり、2017年の交代劇は、今後のドラッグストアについて、OTC医薬品や化粧品だけではなく、調剤も食品もバランス良く販売する力を持ったチェーンが首位に立つことを示したと言えそうだ。そして多様な商品カテゴリーをバランス良く売る総合力の高さは、これまでのドラッグストアにおける売場イメージを変える可能性があるだろう。食品を単なる集客目的としてだけではなく、健康や美容とも関連づけることによって店舗の生産性向上を図っていくような、総合的なヘルスケア提案業態が生まれる可能性に期待したい。
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ⅰ 平成29年3月期(連結)
ⅱ 平成29年2月期(連結)
ⅲ 平成29年5月期(連結)
ⅳ 平成29年4月期(単体)
ⅴ 以下、日本チェーンドラッグストア協会データによる
ⅵ 重冨、加藤(2016)「消費者視点によるドラッグストア店舗施策の再検討:-ドラッグストアに求められる機能とベネフィット」、『流通情報』、2016年7月(No.521)