2018.8.9 更新
高橋 佳生
公益財団法人流通経済研究所 常務理事
日米食品流通シンポジウム
先の6月、米国ウィスコンシン州で「日米食品流通シンポジウム」(キッコーマン株式会社、公益財団法人流通経済研究所共催)が開催された。シンポジウムでは、日米の食品流通業界を代表する経営者や有識者が、人口動態の変化やeコマースの進展等を踏まえて多様化する消費者の購買行動に、食品小売業がどのように対応すべきかの議論を展開した。弊所は、このシンポジウムの企画・運営に参画したことから、その内容を紹介しつつ、米国で感じた流通の変動についてお伝えしたい。
eコマースの進展
米国の小売業界における最も大きな変化は、アマゾンの急成長に代表されるeコマースの進展である。その影響は、カテゴリーにより異なり、書籍・音楽・ビデオやPC及びソフトウエアで75%、アパレル・アクセサリーで20%、飲食料品で3%とされている。大手小売業のノードストロームやウィリアムズ・ソノマ等のネット売上は好業績を上げている。その一方で、リミテッドやトイザらスは全店閉鎖となっている。アマゾンは、小売全体の2.5%、ネット売上の22%を占め、店舗小売業を消滅させている。
アマゾンの脅威
ハーバード大のラル教授によれば、アマゾンの強みは、プラットフォーマーとして、マーケットプレイスで300万以上のサプライヤーを持ち、フルフィルメント・サービスでも利益を上げるなど、カテゴリーキラーに勝る強みを持っている。さらにR&D組織を持ち、継続的に革新的な取組みに巨額な先行投資をしている点にある。
ミレニアル世代の消費行動の変化
eコマースの進展の背景には、ベビーブーマーの人口を上回ったミレニアル世代の台頭がある。デジタル・ネイティブで、ITを駆使し、モバイルのプラットフォームを好み、クチコミやSNSから強い影響を受ける人々である。また、所得が低く、シェアリング・エコノミーを好む。
ミレニアル世代の購買行動の特徴を表すキーワードは、簡単・便利・スピーディ、専門知識によるサポート、などが挙げられ、食に関しては、ミレニアル世代に対応した新たなミールソリューションが求められており、ミールキットなどが伸張している。
スマホ活用のシェアリング社会の進展
今回、シンポジウムに同行したミレニアル世代の研究員が、スマホでライドシェア・サービスのウーバーを利用してみた。人口7千人程度の町で、数年前はタクシーを呼んでも30分程度は待たされたが、ウーバーだと、周辺を数台が走行し、その中から評価の高い車を選択でき、10分程度できてくれる。車もタクシー専用車と異なり、利用者がサービスを評価することから、最新のSUVがきた。その担い手は、非番の消防士や半ば引退したシニアなど様々で、すでにシェアリングが社会のインフラとして根付いていることを実感した。
小売店頭・その他の変化
いくつか訪れた小売店舗においても、着実に変化が進んでいた。ホールセールクラブのサムズクラブで、スキャン&ゴーを試してみたが、スマホにソフトをダウンロードすれば、レジを通過せずにスムーズに買い物を終えることができた。
家電のベストバイは、比較的高額のAV機器、キッチン設備機器などがショールーム化されており、専門知識のある販売員が配置されている。最新の大型冷蔵庫には、庫内を映す液晶パネルが前面にあり、画像データをスマホに送ることもでき、在庫を確認しながらショッピングできる仕組みだ。
一方、地道な効率化に取り組む小売業として、リミテッド・アソートメントストアのアルディが挙げられよう。同社はPBが中心の品揃えで、多くの加工食品がシェルフ・レディの段ボール梱包になっていた。ケースごと棚に置き切り込みを開けると、陳列完了である。複数アイテムが組み合わされたケースもあり、生産段階から店舗の効率化が図られていた。
食品小売業の対応
ウォルマートは、米国最大の食品小売業であり、人口の90%が16キロ以内にアクセスできる店舗網を築いているが、ネット販売が伸びている地域では、店舗の売上が影響を受けている。同社は、ジェット・コムをはじめとしたネット専業を買収し、新たな顧客を取り込み、ウォルマート・ドットコムと棲み分けしながら、オムニチャネル化を推進している。
食品に関しては、パネリストの共通認識として、すべてがネットに置き換わることはなく、リアル店舗とネットとの融合が進むとみている。店舗では、ネットでは得られない、生鮮・総菜等の売場を中心に、来店動機となる「新たな経験」を提供することが重要となっている。パネリストの小売業では、既存の顧客を維持しつつ、新たなニーズに対応する試みが報告されていた。
その一つの方向としては、グローサラント業態が挙げられよう。イータリーはその代表的な店舗で、ショッピングしつつ、その場で本格的で美味しい料理を食べられ、シカゴのダウンタウンの店ではクッキングスクールまでも併設している。
今後のネット社会における購買行動の変化や食品小売業の対応を考える上で、米国の状況をとらえておくことは、改めて重要になると感じた。
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