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2021.11.9 更新

POSデータ活用検定(POS検!)創設の背景と目的

祝 辰也
公益財団法人流通経済研究所 上席研究員

 公益財団法人流通経済研究所では、今年(2021年)より新たに「POSデータ活用検定(通称:POS検!)」制度を創設し、11月15日より約1ヶ月、Web受験方式で第1回検定試験を実施する。本コラムページを借りて、このPOS検!創設の背景や目的、意義について、若干詳しく紹介したい。

POSシステムのメリット

 POSデータの元となるPOSシステムは1970年代に米国で生まれ、1978年には我が国でも導入実験が始まった。1980年代からはコンビニエンスストアを皮切りに小売業界に普及し始め、今日に至っている。
 POSシステムの一義的な恩恵は、店舗における人時生産性や発注精度の向上といったオペレーション面でのメリットと、単品を含むより細かな分類での売上の迅速な把握が可能になったという管理上のメリットであった。

小売業にとってのPOSデータ活用の課題

 POSシステムからはまた「どの商品が、いつ、どの店で、どれだけ売れたのか」という単品レベルの情報、すなわちPOSデータが得られる。しかしこうしたデータを、品揃えや売り方の改善、精緻化に活用すること、つまりPOSデータのマーチャンダイジングに活用することは、実は容易ではない。考え方や分析手法、つまり「どうやって」は様々なノウハウの蓄積があるものの、「誰が」それを行うかという問題が存在するからである。
 マーチャンダイジングの主体は小売業とくに商品部バイヤーだが、1人のバイヤーがカバーする領域はかなり広い。一方マーチャンダイジングは消費者の需要の変化を品揃えや売場づくり、販促に反映させる活動であるから、部門やカテゴリーよりも細かい、サブカテゴリーの単位で消費者需要の変化への適合を考えていく必要がある。POSデータとしっかりした商品分類があれば道具立てとしては十分なのだが、そこまで細かい単位での集計・分析と計画立案は、バイヤー1人では業務量的にも時間的にも厳しい。POSデータ活用の「誰が」をバイヤーだけが担うのは難しいということで、取引先であるメーカーや卸などサプライヤーの協力が必要となる。

POSデータ活用を学ぶ機会がない

 ここで問題になるのは、マーチャンダイジング領域におけるPOSデータの活用について、提案をする側、提案を受ける側のそれぞれが正しい知識やスキルを身に付けているかという点だ。マーチャンダイジング分野でのPOSデータ活用に特化した実用的な書籍自体があまりなく、サプライヤーの営業担当者は先輩からのOJTや「見様見まね」、あるいは「自己流」でPOSデータ分析のやり方を身に付けているというのが実際のところである。
 流通経済研究所では1980年代半ばから、POSデータ活用の高度化に向けた研究を行ってきたものの、日常的な業務としてのPOSデータの活用を学ぶ研修コースである「POSデータ分析・活用基礎講座」を開講したのは2019年であった。この30年近くのブランクは「POSデータ活用の基礎的な知識とスキルについては、各社それぞれ独自にやっているだろう」という我々の思い込みによるところが少なくない。

「POSデータ活用検定」の目的

 「POSデータ分析・活用基礎講座」では、これまで実施した6回で102社、215名が受講し、「改めて基礎を学べた」「活用の範囲が広がった」「自己流でやってきたことが間違っていなかったことが確認でき自信がついた」といった感想を頂いている。とはいえ、業界全体を考えれば215名というのはまだまだ少ないと言わざるを得ない。そこでPOSデータ活用の底上げとさらなる普及のために、POSデータ活用に関する「知識・スキルの証明」「学びの目標」となるべく、「POSデータ活用検定」を創設することとした。

知識・スキルの証明

 サプライヤーの場合、「POSデータ活用検定」は合格者がPOSデータ活用に必要な知識とスキルを有していることを、勤務先の社内および取引先などに証明する役割となる※1。提案を受ける小売側としても、取引先サプライヤーの担当者が「POSデータ活用検定」合格者であれば安心して分析を任せることができるし、提案の信頼度も増す。またバイヤー自身も「POSデータ活用検定」合格レベルの知識があれば、取引先担当者と同じ目線でデータを見ることができ、提案を評価することができ、自身でもPOSデータ活用をより効果的かつ効率的に行うことができる。

学びの目標

 「POSデータ活用検定」の創設にあたって「POSデータ活用検定テキスト」を作成・発刊した。テキストの役割の一つは、検定の出題範囲を明確にすることで、検定の問題はテキストの内容から出題される。テキストのもう一つの役割はテキストに沿ってPOSデータ活用を「正しく」学んでいただくこと、つまり学びのガイドである。「POSデータ活用検定テキスト」は、
 1.POSデータそのものに関する基礎知識
 2.データ分析や統計に関する知識
 3.具体的な施策への活用
の3つのパートで構成されており、「正しく」「効果的」なPOSデータ活用の知識とスキルを習得してもらえる内容となっている。テキストを通して学んだ先に「POSデータ活用検定」を位置付けることができる。つまり「学びの目標」となることが「POSデータ活用検定」のもう一つの目的である。
 もちろん既にPOSデータ活用の経験が豊富で、初歩から学び直す必要がない方も少なからずいらっしゃる。そこで検定のWebページにテキストの詳細な目次を掲載し、テキストを購入しなくても出題範囲を確認できるよう配慮した。

今後に向けて

 「POSデータ活用検定」は創設したばかりで、まだ弊所のPRが行き届いていないものの、既に申し込みを頂いている企業数は多く、企業単位での一括お申し込みも頂いており、大変ありがたく思っている。本検定の目的の一つである「知識・スキルの証明」が目指す機能を発揮するには、さらなる認知度、信頼性の向上に努めていく必要を痛感している。一方で、テキストを活用した「学びの目標」としては機能を十分果たせる内容となっている。
 第1回の検定試験は2021年12月12日まで(申込期限は11月30日)となっており、ご自身のスキルの証明、学びの目標として、また組織としてのPOSデータ活用レベルの向上のために是非「POSデータ活用検定」を活用していただきたい。

<注>
※1 合格者には合格証の他に名刺掲載用のロゴデータ、およびメールの署名欄やSNSに掲載できる電子的なバッジを提供する

▼POSデータ活用検定 詳細・お問い合わせ・お申し込み

https://www.dei.or.jp/school/pos/

▼テキスト購入

https://www.amazon.co.jp/dp/4947664975/

 

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