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2019.8.28 更新

スタート迫るキャッシュレス消費者還元
~駆け込み減資、課税所得基準くぐり抜け、そして還元の嵐のおそれ~

根本 重之
公益財団法人流通経済研究所 理事/拓殖大学 名誉教授

想定される購買行動・・・「買い控え」と「還元ねらい買い」の発生

 まず、2%還元のコンビニに限ってみると、酒や非食品は税率が2%上がるが、キャッシュレスで購入すれば2%引かれるから、キャッシュレス消費者還元利用層にとっては税率引き上げの影響は帳消しになり、駆け込み需要も反動減もなくなるだろう。
 他方、飲食料品は、税率が上がらないところ、キャッシュレスで支払えば、10月以降は2%実質値引きが行われる。コンビニでそうした購買をする人は少ないだろうが、他の条件が変わらなければ、9月は「買い控え」、10月以降は「還元狙い買い」が合理的な行動となる。
 さらに5%還元が行われるスーパー等でのキャッシュレス利用者にとっての価格の変化と購買行動も考えてみる。
 酒や非食品は、税率引き上げにより2%価格が上がるが、5%の還元により10月以降に買った方が3%得になる。税率が上がらない飲食料品は、10月以降に買った方が5%まるまる得だ。当然ながらどちらについても9月買い控え、10月還元狙い買いが合理的な購買行動となる。
 そして結局従来通り9月駆け込み、10月反動減といった購買行動をとるのは、キャッシュレ非利用層、あるいはキャッシュレス消費者還元を行わない店舗でのみ購入する層だけになる。

セール、還元の嵐になるおそれ・・・そして来年6、7月は駆け込みと反動減

 だが、現実は、そんなことになるであろうか。還元支援を受けないチェーンは、9月には駆け込みをする消費者層の駆け込み需要を獲ったうえ、キャッシュレス消費者還元利用層の需要先食いをするためにセールを打とう。
 他方、還元支援を受けるチェーンは、できれば9月は静かにしていたのだが、対抗上、動かざるを得なくなる。そうすると、9月からセールの嵐が想定されることになる。月末が近づくについて荒れる予想だ。
 そしてここでもう1つの強力なプレーヤーであるコード決済事業者の展開も視野に入れておく必要がある。とくに大きな資金と営業部隊をもつPayPayは、9月のキャンペーン対象業態をスーパーマーケットとしており、有力なスーパーチェーンの多くが、PayPayでの支払いに対応するはずである。
 そして10月以降も還元支援を受けないチェーンは、競争上の必要から、取引先の支援も引き出しながら、対抗の還元策、割引策をとるだろう。聞くところによると、ある有力チェーンが、食品メーカーを数十社巻き込んで、それらメーカーの指定した商品を2500円以上購入すると、20%の500円相当の還元をするという企画をすでに準備したということだ。同類の還元セールやポイント・アップが競争的に行われよう。そうすると、10月以降はいよいよ還元競争、その嵐になると考えざるを得なくなる。
 こうしたことが9カ月も続いたらどうなるだろう。多くの企業が疲弊する。そして来年6月には、最後の還元を狙う駆け込み需要が発生し、7月は反動減ということになる。しかもそのとき、還元支援がなくなるのはもちろんのこと、決済手数料の3分の1の支援もなくなる。そうした企業を中心に、小売業は東京オリンピック・パラリンピックを非常に暗い思いで迎えることになるかも知れない。マイナンバーカードの普及を狙う第2の還元策が用意されはするのであるが、そうならないようにしてゆくことが必要だ。
 他方、大手チェーンは、上記の駆け込み需要期に必要となる対抗策をとったうえ、余力を残せればの話だが、7月以降、中小チェーンを打ちのめしに出ることを考えておいてもいいかもしれない。
 ちなみに弊研究所の長期予測「流研ロングタームフォーキャスト2019」によると、2020年以降、食料消費は目に見えて減少する厳しい時代が来ることになる。

 

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